2005年07月22日

師走(2)

 一時間後。サワンは図書室で、弁舌を振るっていた。
「と、そういうわけで、ここんとこのゲーさんの痛々しさはもう、見てらんないワケよ。もう、人生の全てに疲れ果てました、って、そういう感じ?」
 春日部晴海は参考書との戦いをさっさと諦めると、サワンの話を傾聴していた。
「なるほど、相当根が深いみたいですね。やはり、あの歌の影響なんですかね?」
「でもさ。俺たちもゲーさんと同じで那須子ちゃんの歌を聞いている訳じゃない? あの落ち込み方はちょっと異常だと俺は思うけどなぁ」
 晴海は少し、思案する。
「人にはそれぞれ、異なる捉え方があるってことじゃ、ないですかねぇ。僕自身は、妖怪がいなくなって汝鳥市に平穏が戻るのは悪くないと思うんですが。本来、それが普通のことである訳ですし」
「そりゃ、そうだけどさ」
 サワンはテーブルに頬杖をつく。
「まだ、あの昆虫人間の話が片付いた訳じゃないじゃん。現状は言わば、奴らが作った仮初めの平和だよ? 手放しで喜べたもんじゃない」
「それは、当然」
 晴海は右手に持ったままのシャープペンシルを一つ指で回してもてあそんだ。
「相手の出方が見えぬ以上、どうしようと騒いだところで何もできやしません。じっくりと構えて、動くのを待っていればいいんじゃないですか。それに」
 背後に視線を配る。
「僕らの優秀なる後輩たちは、誰かが何か言わなくたって事態改善のために動き始めてますよ」
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