2005年07月22日

師走(5)

 吹雪たちが居た場所から少し離れた所に、コノハナノサクヤヒメノミコトを祀る、浅間神社がある。
 二人の少女が、その神社の前に現れる。先行する八神麗が、後続する高槻春菜に尋ねる。
「それで、教えてくれる? いったいどう言う風の吹き回しで、此花の祭祀を教えてほしいなんて言い出したのかしら?」
「自己流の演舞を奉納するだけでは、礼を失してないかと思いましたので」
 麗が、くすり、と笑う。
「巫女になるつもり? ある意味、似合ってるけど」
「ある意味?」
 春菜は少々含みのある麗の言葉を、意識の隅へ追いやった。
「正当な意味での『祀る者』、巫女になるという選択肢もありじゃないかと思います。何時迄も、八神先輩にこの神社の祭祀をやってもらう訳にもいかないでしょうし」
「まあ、ね」
 麗は苦笑した。彼女の実家は和歌山にある。東京での就学を終えれば、そちらで神職を継ぐ予定だ。だから地元の人間である春菜のように、汝鳥にとどまり続ける訳には行かない。もしも春菜のこの申し出が、麗に対する気配りから出ているものであるとするとするなら、それは彼女にとって心苦しいものであった。
 もちろん麗は、理由はそれだけではなく、むしろそれよりもずっと大事なことがあるのも承知しているつもりだ。
「それに、それは恐らく、封印の力を強めることにもつながると思いますし」
「それがキミの選んだ、『大厄』との戦いというわけね」
 ええ、と、春菜は頷いた。
「本当にそれを志すとなると大変だけど。決意は固いのね?」
「例え『大厄』の脅威がなくなったとしても、この地が妖怪を引き寄せ続ける場所であることには変わりありません。だとすれば、この汝鳥の守る力を高めることは、当然じゃないでしょうか」
 麗は無言で、春菜を見る。巫女になる、ということは、日々神に礼讚し、貞節のある生活を自らに義務づけると言うことである。目の前の少女はそんなことくらい承知しているはずだ。
 しかし春菜の目に、迷いはない。だから麗は、早々に説得を諦めた。
「いいでしょう、簡単な作法から教えて上げる。でも、気をつけなさい。巫女の素養とはその子の品行も問うものだから」
「どう言う意味です?」
「学校がこの活動をも、妖怪バスターの活動と捉えるかもしれないということよ。停学、退学となると、少し困ったことになるかもしれないわ。私たちの世界は、学歴を厳しく見るところがあるから」
 春菜の表情は麗のその言葉によっても、変化することはなかった。
「私という個人が、八神先輩という一人の神職者に礼法を教わるだけです。剣術研究会に関わらないことであれば、学校からとやかく言われる筋合いもありません」
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