2005年07月22日

師走(7)

 塔子は上半身裸になった智巳の身体を見て、血相を変えた。
「一体何をやったら、ここまで酷い事になるんだ!?」
「ただの出稽古ですよ。まだ、一本も取れたためしがないんです」
 塔子は智巳の体中にできた痣を眺め、顔を歪める。
「それ以前の問題だ。これは明らかに、やり過ぎだぞ」
 そら が輝充郎の体に包帯を巻いている。
「二人とももう少し、自分の体を大事にしなさい。ここまで酷いと、労災がおりないから」
「結局あんたはそこかよ」
 そら は輝充郎の背中をぴしゃりとはたいた。輝充郎が悶絶する。
「こんな調子で特訓を続けてたら、死ぬかもよ? 次はそっち見るから」
 そら は智巳の体を拭いた。塔子が、智巳の痛みに顔をしかめる様子を眺める。
「少し頭を冷やした方がいい。君一人が頑張ったところで、事態が改善する訳じゃないのだからね」
「わかっている、つもりですけれどね」
「むしろここまでのオーバーワークは我々にとっても害悪となる。バランスを考えるんだ」
 智巳は そら に包帯を巻かれながら、無表情で塔子の顔を見上げる。
「龍波先輩なら、いいんですか」
 塔子が凍りつく。そこに、輝充郎の声が割り込んだ。
「待て、鷲塚。柚木には俺が無理言って付き合ってもらったんだ。あんまそいつを責めるな」
 塔子が驚いたように、輝充郎の方を振り返る。対する智巳は、包帯の固定された体を少し動かして、立ち上がる。
「すみませんでした。変なこと言って」
 そら が、窓枠を乗り越えようとしている智巳に声をかける。
「こいつらじゃないけど、しばらくは安静にしてて。ただの打ち身とかいってなめてかかってると、うっ血が酷くなって、本当に動けなくなるから」
「努力はします」
 智巳が立ち去って、数分。塔子が先に口を開く。
「おい、龍波」
「分かってるって。嘘を言ったのは謝る。だが、ああでも言わんと奴は収まりがつかねぇだろうに」
 塔子が無言でうつむく。実は塔子が先に、輝充郎の特訓に同伴したいと申し出たのである。
「やっぱり最近のお前、何かおかしいぜ。そりゃあ俺もつまらん壁にぶち当たって阿呆なことに手を出しちゃあいるが、支えが必要な悩みを抱えてるのは奴の方じゃねぇのか? ありゃあ、ほっとくとどんどん無茶するようになるぜ」
「そうかも、しれん。だがな」
 塔子は俯いたまま、額を手で抑える。
「正直、今の鷲塚にはどう接していいか、私にはよくわからないんだ。情けない話だが。如何に強大な妖怪が相手であれ、それに対する術は二手、三手と思い浮かぶというのに。男女の問題となると、その」
 輝充郎はしどろもどろになる塔子を眺めて、疲れたように背筋を曲げる。
「それこそ俺の専門外だっての。難しく考え過ぎなんじゃないのか? ったく、どいつもこいつも悩みは深いな」
 何げなく、保健室の扉に顔を向ける。
「ま、悩みの深さだけなら剣研の一年坊主も相当のもんだが。ある意味、奴の悩みが一番贅沢なんじゃねぇのか?」
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