2005年07月22日

師走(15)

 大介たちが風紀委員会と衝突していたのと同じ頃、剣術研究会の部室の前では、まさしくウォレスの予想とまったく違わぬ光景が広がっていた。
 違うのは、こちらには風紀委員会の顧問まで顔を出していたということである。剣術研究会の活動はある意味見た目がオカルト・ミステリー倶楽部のそれよりも派手であるので、与しやすしと踏んだのであろう。
 その対応に立ったのが春菜と真琴の二人でなければ。
「大体、妖怪バスターの資料を没収して何になると言うんですか。過去の実績を保管することすら、許されないのですか?」
 顧問は、春菜の反論に思わず青筋を立てていた。
「だから、お前らには不要のものだろうと言っているんだ。学校が活動を禁止している以上、資料が残っていてはそれを用いた不正な活動に繋がる。お前らが妖怪バスターとしての活動をしないというなら、協力するのが筋じゃないのか」
「協力して、資料はどうなるんですか」
「お前らがそれを知る必要はない」
 真琴が反論する。
「それは例えば廃棄処分にすることもある、ということですか? ここにしかない希少な記録だってあるんですよ」
「だから、答える必要はないと言っている。それが校則違反による没収品である以上、お前らは文句を言えん筈だ」
「事後立法的に違反の対象とすること自体がおかしなことじゃないですか。それは学校の意向を大義名分とした横暴ですよね」
 顧問の眉間に深い皺が刻まれる。二人とも学業優秀、品行方正で模範生徒に名前が挙がる。それを相手に素行不良のレッテルを張り付ける訳にもいかないから、少々始末に悪い。
「いいかお前ら、頼むからそこをどいてくれ。でないとお前らを処罰せにゃならん」
 春菜が毅然とそれに答える。
「どきませんし、処罰を恐れることもありません。ただ不当な措置を受けたという記録が残るのみです」
「で、それを誰に訴える。妖怪討伐の記録を不当に没収されたと言って、世間様が納得すると思ってんのか」
「それは」
 春菜の動きが止まる。それを見た顧問が、風紀委員たちに目配せする。彼らは春菜たちの間を擦り抜けて、部室の中に入り込もうとする。
「くっ」
 春菜が停学経験をする意志を即断しかけた瞬間、ネイの声が響いた。
「いい加減にせんか、この無礼者どもがっ!」
 春菜は背後を見て、咄嗟に真琴の頭を押さえ、自分も身を低くした。直後、何か巨大なものが風を切って二人のすぐ真上を通り過ぎて行く。
 激しい激突音が、部室前の通路一帯に響き渡った。
 春菜たちが背後を見る。部室の扉の、通路を挟んだ向かいの壁に、半壊した机がめり込んでいる。壁に当たった衝撃で台は二つに割れ、脚の二本が下手な飴細工のように折れ曲がっている。
 風紀委員会の顧問が顔を上げる。
「り、リファール先生!? あんた人を殺す気ですか!?」
「やかましいわっ!」
 騒ぎを聞き付けた教師が数人、部室の前までやって来る。
「またですか、リファール先生! 何遍騒ぎを起こせば気が済むと」
 反論の代わりに、二個目の机が飛んで来た。悲鳴を上げて避ける教師たちの背後で、その机も最初の物と同じ運命をたどった。
「お、お前ら、リファール先生を止めろ!」
 何人かの勇気ある風紀委員や教師たちが、ネイを取り押さえにかかる。
「だから、いい加減にしろと言うとろうがあっ!」
 呆然とする春菜や真琴を前に、ネイは暴れに暴れた。
 生徒をぶん投げた。
 教師をぶん投げた。
 柔道部顧問の体育教師までぶん投げた。
 力任せに投げ飛ばされた生徒教師が折り重なって、死屍累々の山を作り上げた。最後に風紀委員会の顧問がその上に投げ飛ばされて、一斉に蛙の断末魔のようなうめき声を上げた。
 教師の一人が息も絶え絶えになって山の中から這い出して来る。
「り、りふぁーるせんせえ、あんたこんなことやって、ただですむと」
「先に手を出したのは、馬鹿風紀の連中だっ!」
 ネイは力任せに部室の壁へと腕を叩きつけた。その一撃で鉄筋コンクリートの壁に放射状のひびが入る。
「そうでもなければ、こんな馬鹿騒ぎにならんわっ!」
 春菜がおっかなびっくりネイに近づいた。
「あの、先生。冷静になってください。これ以上暴れると、彼らの手によらずとも部室が台なしになります」
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください

この記事へのトラックバック