2005年07月22日

師走(20)

 播磨金物店。
 塔子は部屋中に積み重なったファイルや古書など、妖怪バスターの過去の活動の記録を見回した。
「退避してきた資料はこれで全部か?」
 輝充郎が右手を上げる。
「剣研は少なくともこれで全部だ。そっちの方はもっと資料の類いが多かねぇか?」
「ここに入りきらん分は夕凪に移送する。学校の連中も流石に自宅を荒らすまでのことは考えないだろうしな」
 その場にいた全員、剣術研究会とオカルト・ミステリー倶楽部のほぼ全部員が、ため息を漏らす。
「しっかし、どうする? こっそりトレーニングしようにも、先読みしたようにガッコの連中が控えてやがるし」
「大方、高原が我々の動向を逐一告げ口していると見て、間違いあるまい。意地でも我々に妖怪バスターを否定させたいと見える」
 そこに、別の声。
「そいつは、困るな。せっかくの手駒がやる気をなくしてくれるのは、大いに困る」
 全員が声の主に、一斉に注目した。瑠璃はゆらりと立ち上がると、妖怪バスターたちを睨み、腕を組んだ。その尊大な仕草は普段の瑠璃からは考えられない。
 吹雪が口を開く。
「あんた、大黒天か」
「如何にも。今は多賀野瑠璃の体を借りている。自己紹介は必要なかろうし、俺もお前たちのことは、多賀野の感覚を介してよく知っている。例えば俺の目の前の、有資格者に選ばれなかったってぇだけで周囲のすべてを妬んでると自称して憚らない、甘ったれた糞餓鬼の事とかな」
 吹雪が歯噛みする。気に入らない。何が気に入らないって、斜に構えた厭味を言うのは俺の専売特許だってぇの。
「で、その神様が何の用件っすか。まさか、この状況をなんとかしてくれるとでも?」
「いいや、違う。神ってな放任主義だからな。かかる状況は一種の試練と捉える。だが、助言はできる。要は地蜘蛛衆とやらが作り出したこの御平和な状況下でも、牙を研ぎ続けることができればいいわけだろう? お前らの能力で、上手いことやって見せろよ」
「そんなもの、助言されるまでもないっす。大体、俺は神に対する畏怖を捨てるつもりはないけど、その体の持ち主みたく、神に使われるつもりはないんですがね」
 瑠璃の体を借りた大黒天が、鼻で笑う。
「つまらんところにつまらん拘りを持ってんじゃねぇよ、たかだか生きて十数年の青二才が。そんなだから七月のに弄られるんだ」
「弄られる?」
「覚えてないんだろ? ま、本人に会ったら聞いてみな。さておき」
 大黒天は歯軋りしている吹雪を捨て置き、全員を見回す。
「お前らに、うってつけの訓練場を紹介してやろう」
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