2010年02月11日

睦月(1)

 不意に、窓の外が姦しくなった。
 頭まで埋もれた毛布の中から、顔の上半分だけ外に出して、窓のほうを眺める。
 女子の声が聞こえて来る。複数の声質が重なっているところを見るに、数人はいるようだ。
 ようやくご到着か、と、藤間美音子は思う。
 ここは京都府汝鳥市。通称、京汝鳥。東京都にある汝鳥市、東汝鳥と同じ名前を持つ、もう一つの汝鳥である。
 今美音子がいるのは、烏丸香奈の実家・烏丸神社の社務所である。香奈が東汝鳥の妖怪バスターたちの合宿所として、提供している。烏丸神社も例外に漏れず、新年の準備に忙しかったが、それでも十数人の妖怪バスターたちとその顧問が寝泊りできるだけの余裕は確保されていた。
 美音子は学校が終わるやいち早く京都に駆けつけ、以来、社務所で唯一の暖房器具であるこたつを独り占めしている。
 やがて遅れてやってきた彼女らは、こたつに潜り込む美音子を見て憤慨するだろうが、まあ言わせておけば良い。
 彼ら彼女らに、怠慢を咎めるような余裕はないのだから。誰も彼もが、忙しい。
 現在の東汝鳥において、妖怪バスターとしての活動は、制限を強いられている。高原那須子がその能力を用いて、東汝鳥の市民たちに彼らの活動を告げ口しているためである。東汝鳥からの一時避難に成功した彼らは、今までの鬱憤を晴らすかのように、自らの習練に没頭することであろう。
 まったくもって変わった連中である。美音子は心からそう思う。那須子からあの人間の醜い一面を見せつけられてなお、愚かなる自らの同族を、大厄とかいう存在から救うために戦おうというのだから。
 美音子は考える。では翻って、いったい自分は何だというのか。
 美音子は猫又であり、妖怪である。人間の数倍の時間を生き、その間愚かしい人間の行いを猫の視点から眺め続けてきた。それでも時折、ウォレス・ジェラルド・ラインバーグのような変わり者がいて、彼女に仮初めの居場所をくれる。少なくともオカルト・ミステリー倶楽部は、美音子にとってその仮初めの居場所の一つに過ぎない。
 オカルト・ミステリー倶楽部には、彼女のほかにも何人かの妖怪、あるいはそれに等しい存在が居着いていた。過去形である。
 稲荷神の七月恋花は神として祀られなかったが故に、自らを祟り神と称して人間たちの前から消えた。
 あの得体の知れない存在、高原那須子もまた地蜘蛛衆に感化され、人間の元を離れていった。
 オカルト・ミステリー倶楽部、剣術研究会を通じて、純粋な妖怪はもはや美音子一人だけだ。剣術研究会に属する半人半鬼は、人間の血が混じっているからカウントしていない。
 では、自分はどうして、ここに残っているのか?
 と、そこで部屋の外が急に騒がしくなった。襖の開く音。
「あーっ、何一人でぬくぬくしてんのよ、むかつくー!」
 美音子はけだるく身を起こすと、たった今部屋の出入り口に現れた少女たちを視界にとらえる。
「早く閉めてくれます? 寒いですから」
「ふざけんなっ!」
 御神鋼音は鼻息も荒く、美音子に詰め寄った。
「あたしら地蜘蛛衆をブッ潰す修行のために、ここに来てんのよ!? 寒がってる場合かっ!」
「私は寒いのは基本的に駄目なんです。寒さに強い剣研の人が、頑張って修行してきてください」
「じゃあ、何のために京都くんだりまで来たってのよ!」
 美音子は緩慢に鋼音を見上げる。
「今の東汝鳥は、私には居心地が悪いですから。それだけです」
 ただ、それだけのために京都まで来る必要はない、というのは、鋼音に同感ではあるが。別に妖怪バスターたちに付き合ってやる必要などまったくないのだ。
 一方、鋼音には収まる気配がないらしい。力づくで美音子をこたつから引っ張り出すべく、彼女が青筋を立てた刹那、背後から止めに入った者がいた。
「ちょっと御神さん、落ち着いて」
 八神麗が鋼音の腕をとる。
「これが落ち着いていられますかっての」
「御神さん、さっき言ったじゃない。私たちは別にオカミスの人と喧嘩するためにここに来たんじゃないでしょ。喧嘩する余力があったら、それは修行に費やせばいいじゃない」
 鋼音の動きが止まる。
「んー、まあ、それもそうだ。よぅし、そうとなったら! 血の出るよーな超特訓でもってパワーアップして、一刻も早くあの電波や蜘蛛人間どもをぎったんぎったんに」
 鋼音がこたつを踏み台にして、握りこぶしを振り上げる。美音子はその光景を下から見上げながら、軽く手を叩いた。
「勇ましいですね御神先輩、私の分まで頑張っておいてください」
「あんたもやるのよ、あんたも!」
 そのやり取りを、麗が苦笑いを浮かべて眺めている。多分いつものことだろうと、呆れているのだと思う。
 まあ、結論を先送りにしてもまだ問題はないだろう。彼ら彼女らを観察する機会には恵まれているのだから。
 別の意味で愚かで、そして気味の悪い、この一団を。

睦月(2)

 静岡。
 人気のない国道の路傍で、人影が一つ、片腕を横に上げ、手の親指を立てている。ヒッチハイクのサインだ。
 そのもう片方の腕には、段ボールで作った即席のフリップが握られている。行き先として書かれた場所は、「京都」。
 それに気がついた車が一台、幅寄せして減速する。
 と、その直後。突如車は何かを思い出したように車線に戻ると、急加速してその場を立ち去っていった。
 フリップを手にした人物が、バックライトの小さくなっていく車を見送りながら、舌打ちをする。
「イライラするぜ」
 朝霞大介は再び親指を立てる。大介の鬼面に恐れをなした車に、同乗を拒否されたのは、かれこれ三度に上る。
 大介が東京を出発したのは、既に昨日の話だ。赤貧にあえぐ彼に、京都まで到達できるだけの旅費などあろうはずもない。やむなく思いついたのが、ヒッチハイクである。昨日のうちに辛うじて一回だけ成功し、今日中には京都入りするはず、だった。
 今後ろに立ってる少女が、いきなり荷物の中から目を回して這い出してこなければ。
「あのー。やっぱり、車、止まってくれませんですじゃかー?」
「いいから黙ってろ。イライラする」
 大介は振り向きもせずにその黒髪の、七月恋花に良く似たあの少女へと言葉を投げた。少女の場所からは良く見えなかったのだが、その表情からは、いつも以上の苛立ちが見て取れる。
 先日から彼女には振り回されっぱなしだ。道中の栄養源として準備してきた王蛇焼きそばは、少女が荷物の中に潜り込んだ時に、しっかりスペースの確保のために彼女の胃袋に収まっていると来ている。苛立ちもひとしおである。
 年末も近く、道を通りかかる車もまばらである。昼下がりとはいえ長時間の屋外は、心身に堪える。
 大介は、彼自身の鬼相に負けない強心臓の運転手を探しながら、苛立ち紛れに口を開く。
「で、貴様一体、何者なんだ」
 十数秒間、沈黙が流れる。
「今はまだ、申し上げられませんですじゃ」
「人の荷物に紛れておきながら、んな都合のいい話があるかい」
 再び、沈黙。
「……わては、京都に行かなければなりませんですじゃ」
 大介は、軽く舌打ちする。どうやらこれが、彼女の地の口調であるらしい。
 これで口調も七月恋花と合致する。もはや違うのは目・髪の色、耳・尻尾の有無、もう一つついでに胸の発育具合だけと来た。しかしこの少女、自分の正体について、頑として話そうとしない。
 大介は親指を立てたまま、首だけ少女に向ける。その表情は、近づく全ての者をかみ殺そうとする勢いを持つ、狂犬の装いである。
「じゃあせめて、教えろや。いったい何のために、ここまでして京都までついて来ようとする?」
 少女は、明らかに大介の凶相に怖じけづいて、二歩、三歩と後ろに引き下がった。
「そ、それは」
「それも言えねぇってか、ああ!? ここまでやらかしといて、何の見返りもなしで済ませようたぁ、虫が良過ぎねぇか」
「あ、あう」
 大介の恫喝に対して、少女が明らかにうろたえ、項垂れる。しかし大介に容赦の二文字はない。
「京都までの運賃代わりだ。話せ」
 またしても、沈黙。睨む大介に、うつむく少女。頑固親父が聞き分けのない反抗期の娘を責めるような光景が、十数秒続く。
「その」
 少女がおずおずと口を開く。
「わ、わては」
 車のブレーキ音がする。続いて開くドアの音。大介は車道に向き直って、凍りついた。
 モノトーンのカラーリングが施され、屋根に赤いランプが点滅している、やたらと良く見慣れた車。そこから、紺色の制服を着た男たちが、数人姿を現していた。
「あー、ちょっと職務質問するけど、いいかな? ここら辺で女の子を連れた怪しい男が徘徊してるって通報を受けて来たんだけど」
 擦り寄ってくる警察官を迎えながら、大介は呟いた。
「イライラするぜ」

睦月(3)

 京都駅構内の、待合室。
 ネイ・リファールは、椅子三つ分を自分の体と荷物で占拠して、新幹線の中で買ったサンドイッチの残りを平らげながら、少し苛ついた様子で周囲を見回していた。
「まったく、遅いわブリ公め。まさかでっかいほうかぁ? 出る前に済ましとかんか、ったく」
 そのブリ公ことウォレス・ジェラード・ラインバーグはというと、待合室の陰に隠れ、そこから辺り構わず大声で愚痴るネイの様子を垣間見ている。
 彼は後ろを振り向くと、そこに立っていた黒髪の女性に向き直った。
「と、そういうわけで、アナタにリファールセンセの体を調べてもらいたいのデスよ」
 対する みなとそら の反応は、冷淡だった。
「無理」
 あまりにそっけない返答に、思わずウォレスの右肩が落ちる。
「無理って。仮にも保険医でショウが」
「今のネイたんに、人間以外の何かが混ざってるんだったら、私の知識じゃ調べられない」
「そうは言ってもネエ」
 ウォレスはため息混じりに、再びネイの様子を眺める。
 先日、ネイが風紀委員や教師たちを相手に、大立ち回りを演じたことは、ウォレスの意識にずっと引っ掛かり続けていた。
 あの怪力は正直、人間のものとは思えない。
 伝え聞いている話を総合する限りでは、ネイの体内に巣食っている吸血鬼は、その力を大きく減じたものの、完全には滅んでいないようだ。
「アナタ、リファールセンセのことは、良くご存じデショウ。それでも何ともなりマセんか」
「私、ネイたんに使われてあげてるだけだし。まあ、ネイたんに何かがあったら、保険金引き落とさないといけない、か」
 そら は無言で軽く思案した。
「できないことはない、けど。少し手荒な方法になるわよ?」

睦月(4)

 再び京都、烏丸神社。
 既にこの場に到着した妖怪バスターは、剣術研究会、及びオカルト・ミステリー倶楽部両部の、大半に及ぶ。いまだ顧問の両名が到着していないという状況ではある。しかし彼らは、自分たちが今何をするべきかを、十分に分かっていた。
 このような生徒たちの自発性を養ったという意味では、ある意味ネイとウォレスの、両名による放任主義の成果と言えなくもない。
 さて、神社の境内の外れでは、数人の剣術研究会員たちがトレーニングに勤しんでいた。
 マリア・ロックウェルが、木製の小太刀二本を両手で弄びながら、叫ぶ。
「それじゃあ、オイラが直々に稽古をつけてやっかぁ! と、言いたいところだが」
 マリアは、正面に立った少女の姿を眺める。
「そいつは下ろしてやったほうがよかないか?」
「いやですわ」
 トウカ・イーオス・ラインバーグが背負うリュックには、ジョシュア・クロイスが文字通り「詰められて」いた。
「…………」
 そのジョシュアは無言で滂沱の涙を流している。
 さすがのマリアもその光景に、呆れ顔でトウカを見る。
「いやですわ、ってなぁ。別のところに置いとかんと、そいつが危ないだろうに」
「でも、目を離したら、またジョシュアさん、どこかに行ってしまいそうなんですもの」
 ジョシュアがぼそぼそと口を開く。
「だからあれは事故だったんだと言っているだろうに……」
 さておき、とばかりにトウカが続く。
「ところでマリア先輩? せっかく京都まで来たんですもの、ご当地に相応しいトレーニングがしたいですわ」
「何だよその、ご当地のトレーニングって」
 トウカが人差し指を立てる。
「それは当然、白銀の練習場の不安定な足場と、二枚の細長い板を使った、バランスを保ち足腰を鍛えるトレーニングに決まってますわ?」
 マリアは一瞬、トウカの言っている言葉の意味を探して、視線を中空にさまよわせた。
「それって、スキーって言わねぇ?」
「そうとも言うかも知れませんわね?」
「こらこら、剣術はどこだ」
 トウカは人差し指を立てる。
「イヤですわマリア先輩。何事も基礎体力は大事ですわよ? それに、ご覧くださいなこの一面の雪。これをトレーニングに活用しなくちゃ、罰があたるというものですわぁ」
 しばし、沈黙。
 周囲は一面の雪景色である。
「そ、そーだな。剣を持っての稽古なんて、あとでいいんだ、あとでぇ!」
 と、マリアの口から発せられた言葉にトウカが目を輝かせる。
「さすがマリア先輩、ご明断ですわっ」

睦月(5)

 そのトウカの、背後で。
 ジョシュアは郷里の長老から聞いた言葉を、頭の中で何度も繰り返していた。
『最初に己が心の赴く方向へと走り、最初に出会った人間の助力を得よ』
 そしてこの京汝鳥にやって来て最初に出会ったのが、トウカである。
 長老の予言に忠実であろうとすると、彼の探し物「一つの指輪」を探すための助力を、トウカに請わなければならない。
 長老の予言は、百発百中だ。今後、トウカに助けを求めることになるのは、間違いない。
 だが、しかし、長老、これは。
 改めて、ジョシュアはトウカという人物を、自分が知り得た範囲で整理してみる。
 トウカ・イーオス・ラインバーグ。オカルト・ミステリー倶楽部の顧問、ウォレス・ジェラード・ラインバーグの妹で、外見からは想像もできないほどの怪力の持ち主。同時にオカルトマニアであり、自身もチャネリングを使う。
 だが剣術研究会内部におけるポジションは、同学年の冬真吹雪や高槻春菜と比較すれば、それほど高いというわけでもない。チャネリングも、あの夏休みの合宿以来、ウォレスから使用を固く禁じられているという。
 そんな彼女が、「一つの指輪」の奪回に、どう力を貸してくれるというのか。
 そして彼を悩ます事柄は、もう一つある。
 トウカが、考え事をしているジョシュアに声をかける。
「ねぇ、ジョシュアさんもおやりになりますわよね?」
「私はスキー板など、履いたことすらないんだが」
「ああ、今から楽しみですわぁ」
 ジョシュアはそれ以上の反論を早々に諦め、さめざめと涙を流した。
 相変わらずジョシュアの発言は、トウカの耳に届いてないらしい。

睦月(6)

 ふと、柚木塔子の視界の隅に妙なものが入ったところで、彼女は歩みを止める。
 拝殿の前の段差に、鷲塚智己が一人ぽつねんと腰を下ろし、剣術研究会の練習風景を、退屈そうに眺めている。
 声をかけようか、どうか。
 塔子はそう考えたところで、思わず苦笑いを浮かべた。
 智己の心情を慮ることが馬鹿馬鹿しいとか、そういう問題ではない。苦笑を向けた相手は、このような考えに至った自分自身だ。
 何をそんなに弱気になっている、柚木塔子よ。呪詛に縛られ、霊力の成長を望めぬ体となったためか。いかに扱いに困っているからといって、相手は成長途上の後輩ではないか。声をかけてやらなければ、何とする。
 塔子はそう考えて、石段に座り込んだ智己に近づいた。
「休養は順調か」
 智己はゆるゆると顔を上げ、うつろな目を塔子に向ける。
「思わしくはないです、あまり」
「そうらしいな」
 塔子は軽く笑うと、智己の隣に腰を下ろす。
「酷い顔になっている。残業続きの会社員だって、そこまで疲れ切った顔はしない」
「そうですか?」
「ああ。少し前のほうが、よっぽどギラギラしていた」
 智己は一息つくと、自分の両頬を、ぴしゃり、と、平手で叩いた。
「何もしない、ということがこれほど辛いものだとは、思いませんでした」
 塔子が、力なく笑う智己を見る。
「それが、鴉取の教えか」
「僕に必要なのは休憩と、ゆっくり考える時間だと真琴は言っていました。休憩は分かるんですが、考えるとはどういうことやら」
「ふむ。何を考えるべきかは教えられていないのだな?」
「ええ」
 塔子は智己の隣に腰を降ろしたまま、少し思案する。
 ここ最近の智己は、多賀野瑠璃から託された御神刀・備前長船を使いこなす修練に過剰に打ち込んでいた。その様子は、誰から見ても無理をしているようにしか見えないありさまだった。
 休養を勧める声がなかったわけではない。しかし、智己は鴉取真琴に諌められるまで、己の体を痛めつけ続けた。
 一刻も早く剣術に慣れようとして、目先のことが見えなくなっていた。確かにそれはあるだろう。しかし塔子には、智己が修練を急ごうとする、もっと別の理由があるように思えた。この後輩は、おカルト・ミステリー同好会のメンバーにありながら少々愚直に過ぎる。
「そうだな。まずは、悩め」
「へ?」
 思わず間抜け面を晒す智己に対して、塔子は言い放った。
「悩むこと、それ自体が修養の一部なんだ。思う存分悩んで見るといい。何を考えるべきかも含めて、ね」
「はぁ」
 半信半疑、という表情である。無理もない。ついこの前まで心身ともに追い込まれていた智己には、塔子の言うことの何たるかも理解できていないかもしれない。
 だが、だからこそ、真琴は智己に完全なる休養を勧めたのだろうと思う。闇雲に体を動かすことをやめ、思索に耽る時間こそ智己には必要なのだ。なぜ勝てないのか。なぜままならないのか。全てについて思い悩む時間を。
「君は鴉取のことを信頼して剣を置いたのだろう。ならば、それにしたがってみるがいい」
 塔子はそう言いながら立ち上がり、智己の側を離れる。
 きびすを返す寸前、視界の端に映った智己の顔がやけに恨めしげに見えたが、無視することにする。
 こればっかりは、塔子が手を貸してやるわけにはいかない。

睦月(7)

 塔子は通りすがり、物影に向かって声をかける。
「そういうわけで、できれば君もしばらくの間、鷲塚に要らんちょっかいをかけるのは、止めてもらえるか」
「……なんで俺が」
 通路の影にたたずんでいた冬真吹雪が、表情を歪める。
「これは、彼が新しいステップに昇る上で、必要なことなんだ。変な邪念を彼に与えたくない」
「そうでなくて。なんで俺が、そんなことを奴にしなきゃいけないんですか」
「それは、君自身が一番理解していることではないのか?」
 吹雪は眉間に皺を寄せる。
「……その分だと、龍波先輩から聞いてますか」
「彼を恨むなよ。私が聞き出したんだ……腐れ縁になると、ちょっとしたくせで悩み事を抱えているくらいは、分かるものでね。
 あれはあれなりに、君をどう諭すか本気で悩んでいた。持って生まれたものの違う自分では、君に対するどんな言葉も啓蒙には至らないのではないかとね」
 はあ、と吹雪は重く息を吐いた。
「柚木先輩は……多賀野や鷲塚を見て、どう思ってんですか」
「うらやましくない、と言えば嘘になるな。だが私は霊能者として既に『死んだ』人間だ。彼らと同じものが手に入る望みは、未来永劫絶たれているから、それに対する諦めもついている」
「……でも、俺はまだ死んじゃいない。元から死んでると認めたくもない」
「そういう意味で言ったわけでは……」
「いいんですよ、別に。こういうことに耳聡くなっているのも、今の俺がおかしなことになってるってことでしょう」
 吹雪は一方的に話を打ち切る。
「これは、俺個人の感情の問題です。奴らの成長を邪魔するつもりもないし、サークルに迷惑をかけるつもりもありません。俺ん中で決着をつければいいだけなんで、できればお構いなくやってもらいたいんですが」
「……お気をつけください、将軍。嫉妬というものに」
「はい?」
 塔子は無表情のまま、言葉を続ける。
「それは緑色の目をした怪物で、人の心をなぶりものにして、餌食にするのです」
「……『オセロ』ですか。殺したくなるほど美しい嫁はいないんで大丈夫だと思いますがね」
「嫉妬に狂っている。それを自分自身が認識している。だからと言って、それを自制できるという根拠になどなりはしない。
 嫉妬するな、とは言わない。だがあまり自分の感情がぶれるようなら、フォワードを外れることも考えるべきだ。さもないと他愛もない嘘にすら心を乱され、デスデモーナを手にかけることにもなりかねないのだから」
 吹雪が乾いた笑みを浮かべる。
「ただでさえ人手不足だってぇのに、外れるわけにゃいかんでしょ。ま、その辺はうちの中で決めることですし、そん時ぁ自重しますよ」
 吹雪が塔子に背を向ける。
 足早に立ち去る吹雪の背中は、塔子にはどことなく、ふらついているように見えた。

睦月(8)

「ああ、まったくふざけんなって話だ。ここまで来て剣を振っちゃ駄目なんてことになりゃ、目も当てられない」
 誰に聞かせるでもない、独り言をぶつくさと呟きながら、懐を探る。固くて冷たい、円盤の感触。
 結局、此花咲哉から借り受けた雲外鏡は、京都に来た今も懐で暖めたままだ。来たる七月恋花との対決に備えて、いつかは見ておかなければならないものではある。しかしその鏡に映る自らの本質を目の当たりにして、正気を保っていられる自信は今の吹雪になかった。
 今とれる選択肢は幾つかある。最も消極的な選択は鏡を誰かまともな神経の持ち主に託して自らはバックアップに回ること。嫉妬のほうは時間が解決してくれるだろう……恐らく、大厄の異変がどうにか収まった、その後に。
 挫折の経験は、吹雪自身に何かしらの成長をもたらし、大厄の「次」に対する際の糧となりえるだろうか。その「次」が永遠にめぐってこない可能性は、あるけれども。
 では、最も積極的な選択肢は……鏡に映る自らの本質を見ることに依る、「化学変化」を期待する方法は、どうか。
 ……リスクが大き過ぎる。もっと悪いものに変質する可能性も、五分か、それ以上にある。
 しかし、それでも。
 何もせぬまま、緑眼の見えない怪物にずっと苛まれ続けるのと、どちらがましだろうか。
「…………」
 吹雪は無言で鏡を握りしめる。
(……どのみちこいつを見るのは、チャンバラのない今しかない。七月の前にたどり着くまで、そのままにしておくわけにはいかないんだ)
 思い立ったが吉日というし、すぐに見ておくべき……だが、何の準備もなく眺めるわけにはいくまい。最悪、自分が壊れてしまった時のために、誰かに立ち会ってもらうべきだ。
 誰がいいだろうか。自分よりも十分強く、そして誰であれ容赦なく手の下せる人物とは。
「……」
 ふと、一人の人物の顔が吹雪の脳裏をよぎる。
「……や、駄目だ駄目だ、あいつにゃ頼めん」
 吹雪はその人の映像を頭から振り払い、歩き出す。確かにその人物は、吹雪が我を失い暴虐に走っても、躊躇なく吹雪を叩き伏せることができるだろう。しかし、それでも、頼めない。
 理由は分かっている。我ながら本当、卑しいと思う。
 何とか別のつてを探そう。吹雪はそう思いながら、頭の中に剣術研究会の面々の顔を並べ始める。

睦月(9)

 高槻春菜と鴉取真琴の前に現れた烏丸香奈は、当然ながら、巫女の装束を身につけていた。袴の緋色、白衣の白、長い黒髪のコントラストが、絵画から飛び出たかの如くに良く映えている。
「申し訳ありません。新年の例祭の準備が立てこんでおりまして」
「いえいえ、こちらこそ。忙しい時期に押しかけるだけでも、十分な迷惑なのに」
 香奈は春奈たちの前に音もなく正座すると、表情を険しくする。
「今は非常時です。大厄復活の危機が間近に迫っている折に、悠長なことは言っていられません。
 この度の例祭も、京汝鳥における四方の結界をより強固とするための祭事を兼ねております。き奴らが東汝鳥で何をしようと、こちらの守りが強固となれば、封印を解くには至らないでしょう」
「やはり、京汝鳥にも東汝鳥と同じ封印が施されているのですね」
 その通りです。と、香奈が真琴の言葉に頷く。
「四方を四宝と四柱にて祀り、大厄を封じる結界とする。東汝鳥の結界と同質のものですが……東のそれに比べてずっと頑強なものです。さる高名な陰陽師が入念な準備を重ね、この地におびき寄せた大厄を見事封じ込めました」
「……おかしいですね」
 ぽつり、と呟いたのは春菜である。
「何がですの?」
「何か、東と京と、ずいぶん封印の入念さに差があるな、と」
「ふむ……」
 言われてみれば。香奈は先日、東汝鳥の結界を視察した時のことを思い返す。
「あの封印は不安定になっていたと同時に、急ごしらえなものにも見えたことは確かですわね。あの状態で百数十年を持ちこたえたのが不思議なくらいに……あの差はいったい……」
 思索に耽る香奈を前にして、春菜と真琴は顔を見合わせる。
「……ご存じ、なかったのですか?」
「……恥ずかしながら。京汝鳥に残っている大厄に関する資料は、伝承の域を出ぬものしか残っていないのです。はっきりしているのは、大厄が最終的に二つに分かたれて、封印されたということぐらいでしょうか」
 春菜が再び口を開く。
「そう言えば……播磨さんが言っていたそうね。大厄の資料が残っていないのは、太平洋戦争で全部焼けてしまったからだって。でも、それって、本当は」
「残存するほど、資料が多くなかった……?」
 三人押し黙って、五秒ほど空間が沈黙する。
「そんな重要なことが、どうして……?」

睦月(10)

「そりゃお前、おおっぴらにすることが、憚られるようなことだったからに決まってらぁ。どんな時代であれ、都合の悪い物事には蓋をして、見て見ぬ振りを決め込んじまう、それが人間ってぇ生きもんよ。ああ、愚か愚か」
 そう言って、龍波輝充郎の前に座る男はけらけらと笑う。
 頭に白髪を蓄える、枯れた老人である。しかしその目は、子供のように生き生きとしている。語る合間も年代ものの万年筆を、手の中でくるくると回し続けて、何だかせわしない。
 なんぞ想像力を、かき立てているのかもしれない。と、目の前の男のことを良く知る輝充郎は考える。
「都合が悪い、って、いったいどんな……」
「おっと、テル坊。お前さんは余計な詮索をしないほうが身のためだよ。いくら地元つってもこっちに顔を出すのは久々、門外漢なのは変わりがないんだからね」
 輝充郎の「輝」の字を読み変えて、テル坊。二倍近い体格差があるにも関わらず、いまだに坊や扱いである。
「そうは言ってもな。手掛かりになるかも知れねえのに、詮索するなはねえだろう」
「ばぁか、詮索はお前さんの仕事じゃないだろう。本職に任せとけってのさ」
 男はそこで、なぜか輝充郎を手招きする。耳を貸せ、の合図だ。
 輝充郎はしゃがみ込んで、男と首の高さを合わせる。男は口に手を当てて、声を潜める。
「ここだけの話にしておくんなさいよ。大厄の封印には、どうやら裏があると見たね」
「裏?」
 おうさ。と男が応じる。
「大体だ。胡散くせぇと思わねえかい? 本当だったら、地蜘蛛みてぇな勘違いした連中が、東の封印を解かないように注意書きを振れ周るのが、筋ってもんだろう。それが今までほったらかしとは、どうにも合点がいかない。間違いなく、誰か疾しいことを考えた輩が、口を針と糸で縫いつけているのさ。それも、身内の誰かが」
「みう……っ!」
 やにわに耳を引っ張られる。
「でかい声出しなさんな。誰が聞いてるかも分からないんだから」
「わ、悪い」
「いいかい。お前さんは何も知らない振りをして、友達と一緒に合宿を楽しみな。俺がそれとなく、上の連中に探りを入れてみて、面白そうなネタがあったら、連絡をしてやるよ」
 輝充郎が、つねられた耳を撫でる。
「俺たちにとっちゃ、ちっとも面白い話じゃないんだが」
「それどころか、お前さんがたが京都に呼ばれたのにも、何か理由があるんじゃないか。身の周りには、気をつけたほうが良さそうだねぇ」
 まさか。とは思う。
 しかし言われてみれば、京汝烏の連中の態度には、疑問が残る。
 今の今まで、彼らは東汝鳥に対して、ずっと放任状態であったはずだ。それこそ、東汝鳥に、京汝鳥の存在すら知らない者がいるくらいに。
 それが今になって、どうして東汝鳥に介入してくるのか。大厄の封印が、危険な状態になったから? それにしては、あまりにも対応が後手に回り過ぎていないか? 疑心暗鬼の芽は膨らむばかりだ。
 顔を顰める輝充郎に対して、男からの声がかかる。
「何度も言うが、お前さんは余計な詮索をしないほうが身のためだよ。お前さんがたは、四六時中目ぇつけられてると思っていたほうがいい。それこそ、ここを出た次の瞬間からな」
 輝充郎は、無言で背後を見る。
 古ぼけた、鉄の扉が一つ。擦り硝子の小窓が取り付けられている。
 一瞬、その片隅に、影が走ったように見えた。
「……!」
 改めて見直すけれども、誰かがドア向こうにいるような気配はない。目の錯覚か、それとも、気の迷いか。
 いずれにせよ、男の言葉は輝充郎にとって、十分過ぎるほどの警鐘となったことは、間違いない。
 輝充郎は、改めて背後の男を見る。
「十分に気をつけるぜ。有難うな、祖父さん」

睦月(11)

「……それで、なんで僕になっちゃうんですかねぇ」
 座卓に参考書を開いたまま、春日部晴海は冷や汗を流す。視線の先には、神妙な顔でかしこまっている吹雪の姿がある。
「すんません。もう他に心当たりがいないもので」
「沢山いると思いますよ? 蓮葉さんとか、八神さんとか。何より、龍波くんがいるじゃないですか」
「あの辺りには、とても頼めませんで」
 吹雪は苦笑いを浮かべる。
「俺は多分、鏡を見ちまったら多かれ少なかれ、尋常ではいられません。その時にあの人たちには、無様を晒したくないんです」
「僕なら、いいんですか?」
「身勝手は承知の上です」
 晴海は、困り顔を浮かべたまま、吹雪の姿を眺める。
「僕には受けられませんね。適任ならほかにいるでしょう」
「どうして。三年世代では一線級だったそうじゃないですか」
「僕程度の使い手は、会にごろごろ在籍してます。それ以前に、君は最初に頭を下げに行くべき人たちから、逃げ出してはいませんか?」
 吹雪の笑顔が、苦渋に歪む。
「ここ最近の君の素行は、知らないわけじゃありません。鷲塚くんや、龍波くんにまで八つ当たりを繰り返し、それでも自分で何とかするから大丈夫という。そこまでの醜態を見せておいて、今更無様な姿を晒したくないなんて、筋が通らないと思いません?」
 吹雪はしばらく、押し黙った。
 彼は迷いあぐねた末、同級生には頼めず、現在の主力たる二年生にも頼めず、困り果てて、晴海のところへやって来たのだった。
「……いい加減醜いところを見せ続けるのにも、疲れたんですよ」
「そんなこと言って。僕なら頼み込めば、何とかしてもらえると思ってないですか? いくら僕でも、聞けない頼みはありますよ」
「…………」
 概ね、図星である。
 複雑な表情を浮かべる吹雪に対して、晴海はひらひらと掌を振った。困惑の表情ととられたかもしれない。
「まあ、まあ、わざわざ頭を下げに来た誠意は買いましょう。僕の前に、誰かに同じことを頼みましたか?」
「……先輩が最初です」
「では、剣研の部員、全員に頭を下げて来なさい。その上で誰も君に協力してくれないと言うのなら」
 晴海の表情に、ゆらりと影が立ち込める。
「この僕が立ち会いましょう。抜刀するのは本当に久々になりますがね」
「……有難うございます」
 吹雪は一礼してその場を立ち去った。晴海はため息をついて、無言でそれを見送る。
「いやいや、君にしちゃ結構厳しくできたんじゃないかな」
 向かいの座卓に肘を突いて、堀サワンがにやけた笑みを浮かべている。一応、晴海と同様に参考書を広げてはいるが、その進捗は芳しくないようだ。
「そりゃあ、頑張りましたよ。ここで簡単に請け負っちゃったら、彼のためにならないじゃないですか」
「うんうん、悩んでもらわないとね。彼は自分自身とも、自分自身が困らせてる人たちとも、きちんと向き合わないといけない」
 晴海は瞬きして、サワンを見る。
「何か?」
「いや。妙に老成したことを言うなと思いまして」
「……そーかな?」

睦月(12)

「ふむ」
 ネイは社務所の縁側に寝っ転がり、ぼりぼりと煎餅をつまんでいる。
「これではいつもの部活動と、あまり変化がないな。まるで面白くない」
 それは単に、ネイがいつも通りのことをやっているからに過ぎないのだが、それはさておく。
「しょうがない。妾が少々部員どもの特訓に付き合ってやるとするか」
 という名目で、ネイが暇つぶしに立とうとしたところ。縁側の脇から声がかかった。
「ネイたん、ネイたん」
 廊下の曲がり角から、そらが手招きをしている。
「どうした、下僕?」
「ちょっと、こっち来て」
 ネイはけだるそうに体をそらのほうへ向ける。
「何だいったい、藪から棒に」
 そらに招かれるままに角を曲がる、と。
 どごぉん。
 という轟音と共に、巨大なハンマーがネイの頭上に振り下ろされる。
 もうもうとした土煙が晴れたあとには、廊下にめり込んだハンマーと、その下から手足だけを覗かせたネイの姿が残される。
 そらはハンマーの柄から手を離すと、額の汗を拭う。
「……ふぅ」
「何、一仕事終えたぜ、みたいなため息ついてんデスか!?」
 血相を変えつつ、ウォレスが怒鳴る。
 対するそらは、大きく目を瞬きさせて。
「……なんで、怒る?」
「いや、何てことするんデスか! なんか痙攣してやばそうなんデスけど!?」
 そらは一度、ハンマーに潰されたネイのほうを見て、もう一度ウォレスを見る。
「大丈夫。データはとれてるから」
「そういう問題じゃ、って、今のが調査なんデスか!?」
「衝突時の衝撃とか、感触とか、あといろいろ」
 ぐい、と、そらがハンマーを持ち上げる。あとには、傷一つない姿のネイだけが残される。
「隠れて」
「へ? あ、はい」
 半信半疑で近くの部屋に入り、様子を伺っていると、ネイが唐突に身を起こす。その姿には、傷一つない。
「うー、む。今、何かあったか?」
 ネイはしばらく思案するように、視線を泳がせる。
「……気のせいか。さて、そろそろ行くとしようか」
 ネイは頭をぼりぼりかきながら、ウォレスたちの前を歩き去っていく。どうやら、痛みすらないらしい。
 ウォレスは我に返って、そらに尋ねる。
「それで、何が分かったんデスか」
「あんまり良くないことだけは、分かった。ネイたんのDNAに、変なのが混ざってる」
「変なの、とは?」
 そらは無表情で、淡々と言葉を紡ぐ。
「多分、吸血鬼のだと思う。滅ぼされたくなくて、ネイたんの細胞に寄生してるっぽい」
「…………!」
 ウォレスは、ネイの去ったあとを見る。
「それじゃ、奴を切り離すにゃどうすりゃいいってんですか」
 そらがウォレスを見る。その表情は、若干眉を顰めている様にも見える。
「ネイたんに一緒に死んでもらうしか、方法がないかもよ」
 ウォレスが、ごくり、と唾を飲む。
 やはり、剣術研究会の部室での大暴れは、吸血鬼の力が影響していたのか。
 しかも、それはガン細胞の様に、ネイの体を侵し続けている。無理に切り離そうとすれば、それはネイ本体にも致命傷を与えることにもなりかねない。
 ではどうすれば。ウォレスが思索の海に浸かりかけていたところ、廊下の奥から乱暴な足音が近づいてくる。
「うぉいゲー公、どこだ?」
 なぜか、ネイが戻ってきた。
 察知されたのか。ウォレスは恐る恐る顔を出す。
「何デスかもう、アナタはいつも慌しいデスねぇ」
 ネイは心底渋そうな表情を浮かべながら、背後を指し示す。
「気が進まんが、貴様にも振ってやろう。こやつが我々に、頼みたい仕事があるそうだ」
 ネイの背後には、背広を着た壮年の男が、ウォレスに対して頭を下げている。

睦月(13)

 東京都汝鳥市の中心に位置する、播磨金具店。
 店主の播磨源蔵は、今もなお白河塗りの大枝にノミを入れ続けていた。
 既に枝としての外観はなく、細長い棒状になったそれは、刀としての機能を備えつつある。
 相馬小次郎は、その作業の風景をただ無表情で眺めていた。
 そこで、ぽつりと、小次郎が口を開く。
「来ませんね」
「何がだ?」
 源蔵はそう返しながらも、黙々と作業を進めている。
「地蜘蛛の連中ですよ。退魔師が街を離れている今こそ、絶好の機会だというのに。彼らはいまだ、ここを攻めてこない」
「何、心配はいらねぇ。ここには神さんが、お二人もシかえてんだからよ。奴らも恐れをなしてるんだろうさ」
「だと良いがな」
 別の声が作業場に押し入ってくる。顔を出したのは南光坊である。源蔵がそれを、横目で睨む。
「なんでぇ、優男。動けるようになったんなら、とっとと地蜘蛛とやらのアジトを探してきやがれ」
「無理な相談だな。地蜘蛛は御大の信頼も厚く、独自の行動が許されていた。根城をいかに定めるかは、奴らの腹づもり次第よ」
「ちっ、ただ飯喰らいめ」
 源蔵は愚痴を垂れながら、作業に戻る。
「しかし、連中の思惑は分からんでもない。身共が身動きとれぬ間に、少々、事態は厄介な方向に進行しているようだ」
 小次郎が南光坊に尋ねる。
「彼らは、妖怪たちを自らのところに引き込もうとしていましたね。どういう思惑だったのですか?」
「連中は仲間を増やすために、妖怪どもをかき集めていたわけではない。奴らが欲しているのはその妖力。それを用いて大厄の封印の外側に召喚陣を成し、大厄を眠りから覚ます腹づもりよ」
 がつん。ノミを叩きつける音が、作業場に大きく響く。
「胸っ糞悪ぃ話だぜ。そんなんで封印を破れると思ってんのか?」
「供馬尊の封印を解くには、鍵が必要ではなかったのですか?」
 小次郎の問いにも、南光坊の表情は渋い。
「身共は御大から、そのように聞いているというだけだ。奴らは鍵に頼らずとも、封印を解くことができると踏んだのであろう。それが本格的に動き出せば、ここもただでは済まんな」
 ごちん。南光坊の頭に木槌がぶち当たる。源蔵が、木槌を投げつけた手もそのままに、南光坊を睨んでいる。
「ただで済まねぇなら、それこそとっととアジトを探して来いっての」
「人手が足りんよ。せめて妖怪バスターの連中が京都に旅立つ前に、身共が戻って来れればな……」
 小次郎が源蔵を見る。
「今からでも、彼らを呼び戻しましょうか?」
「そのシツヨウはねぇよ。召喚陣だか上半身だか知らねぇが、力技でどうにかなるような代物なら、とっくに破られてらぁ」

睦月(14)

 汝鳥市内の一角にある、雑居ビルの一室。
 その空間に、細長いタンクのような物体が整列している。
 そのタンクが作る通路に、数条の閃光が走る。それは時間をかけて数を増やし、連なり、人の形を構築していく。
 高原那須子の映像体は、若干のノイズを残しながら、通路に降り立った。
(……現在のパワーでは、この距離が限界か)
 那須子は歯噛みしながら、自分のぼやけた手を見つめ、続いて、タンクを見る。
 タンクの一つ一つは、大きな曲面硝子が取り付けられており、その中身が覗けるようになっている。
 タンクの中にあるのは、全身をベルトでがんじがらめに拘束された、那須子自身の姿。
 その那須子の本体が封じられたタンクを始め、その一つに一体ずつ、異形の体が閉じ込められている。
 先日、急激なパワーダウンを余儀なくされたのは、間違いなくこのタンクのせいだ。タンクの底にはパイプが繋がっており、他のパイプと合流して、地を這い、一方へと向かっている。
 そこにあるのは、一面にびっしりと呪印が施された、巨大な塚のような物体。時折一面が青白く明滅している。
 その光に、那須子は舌打ちする。
(あれで、那須子たちのパワーを吸い上げているのね)
「その通り」
 着崩した和服の女が歩み寄ってくる。地蜘蛛の頭領、巫呪姫である。
(那須子たちからパワーを集めて、何をするつもり?)
「無論、大厄を封印から解き放つための力として、活用させてもらう」
(何よ、それ。話が違わない? 那須子はあなたたちが、あやかしのための理想の世界を作るって聞いたから、協力したのよ? なのに、これじゃ、ただの踏み台じゃない)
「妾は嘘は言っておらぬ」
 くすくす、と、巫呪姫が含み笑いを漏らす。
「ただ、回天の世を作るには、少々の犠牲を払うもやむなしということよ。特に高原那須子。お前は公衆の面前で、派手に力を使い過ぎた。もはや、このような形で妾どもに尽くすより、ほかにあるまい」
(何言ってるの、冗談じゃない。那須子もだけど、ここにいるあやかしたち、全員がそれに同意しているというの?)
「お前が知る必要はない」
 そう言って笑う巫呪姫を見て、那須子は直感する。これは確実に、同意など得てはいない。妖怪たちを集めて、人間たちに対する反乱軍を結成すると聞いていたのに。こんな生贄まがいのことをやるためだったとは。
(許せないわ……こんななりふり構わないやりかたなんて、那須子は認めない)
「ほう? 認めなければ何とする。妾どもに対して反乱でも起こしてみるか。お前の本体はそのカプセルの中、しかも妖力の大半を奪われた状態で、それができるのであればな」
 高らかに笑いながら、巫呪姫が那須子に背を向ける。那須子はその耳障りな哄笑を聞きながら、肩を震わせて。
 口の端を吊り上げ、彼女もまた笑っていた。
(……分かったわ)
「何がだ?」
(あなたの本性、よ。あやかしを犠牲にしてまで、万事をなそうとするそのやりかたは、あやかしの考えることではない。
 あなた、人間の血が混じっているわね?)
「なっ」
 ここで巫呪姫が、初めて大きな感情を露わにした。振り向いて那須子を見る。
(あら、そんなに驚くことかしらね? まさか、気がついていなかったのかしら? 同じ地蜘蛛の仲間に混ざってても、あなた一人だけは、人間に近い姿をしているというのに)
「そ、そんなわけがあるか!」
 巫呪姫が激吼する。
「この身は蜘蛛神様の姫巫女として、選ばれし者に与えられたものぞ! お前の如き、仮初めの人身とはわけが違うのだ!」
(そのように教えられて、育ったのでしょう? でも、実際は違うとしたら? 物心ついた時から地蜘蛛と群れてたんでしょうけど、あなた自分の親の顔を、きちんと覚えているかしら?)
「…………!」
 絶句する巫呪姫を前に、那須子は笑う。やはりこの女には、人間の血が混ざっている。少なくとも片親は人間だ。今まで彼女はそれを知らず、自分を純粋な妖怪と思い込んで、育ってきたのだ。
(なるほど、なるほど。そういうことなら、あなたも那須子の敵ってことね。今後、那須子『たち』はあなたと袂を分かつから、そのおつもりで)
 那須子の姿が、巫呪姫の前から消える。それを見送る巫呪姫の顔には、血管が浮き出ている。
「この妾に、汚らわしい人間の血が混ざっているだと!?」
 彼女は腹立ち紛れに、那須子の本体が封じられたカプセルを、強く蹴りつける。そうやって、揺らぎかけていた自身の優越心を、安定させる。
「妾は高潔なる地蜘蛛の女王ぞ! その妾に、人の血が入るはずなどないわ!
 お前はそこでゆっくりと、妖力を提供し続けるがいい。どうあがこうと、大厄の復活を押し留めることなどできぬのだからな」
 ふん、と息を吐いて巫呪姫がその場をあとにする。
 一方、カプセルに封じられた那須子は、内心ほくそ笑んでいた。
(大事なことを忘れてないかしら? いくらパワーを削がれたとは言っても……私の能力そのものが、使えなくなったわけではないのよ?)

睦月(15)

 道中、職務質問されること三回。
 不審者扱いされて説得されること二回。
 大介と謎の少女とが京都にたどり着いたのは、先着から遅れること一週間ほど経ったあとだった。
 ダンプから降り立った大介が、膝を折って大きく息を吐く。
「ここまで長かった……イライラするぜ」
 続いて降りてきた少女が、頭を下げる。
「あの……ご迷惑をおかけしてしまったみたいで……」
「みたい、じゃねぇ。迷惑だ。イライラする」
「……すみませんですじゃ」
 まったく。と、大介が周囲を見回す。
 京都駅前の市街地。人通りはかなり多い。
「とっとと汝鳥に向かうぞ。ここからは徒歩だ、きりきり歩け」
「あの、タクシーとかは……」
「そんな銭はねえよ、イライラする。とっとと歩かねえと置いてくぞ」
 本気で少女を捨て置く勢いで、大介は歩き始める。いい加減イライラし過ぎて、少女の正体など、どうでも良くなってきた。
「それでてめぇ、名前は七月レンカ、でいいのか」
 警察署でようやく名乗った、少女の名前である。
「は、はい。恋の歌、と書いて、恋歌ですじゃ」
「…………」
 つまりは七月恋歌。恋花とは一字違い。
「それでお前、キツネの七月とはどういう関係だ?」
「……キツネの、七月? もしかして、八歳さまのことですじゃか?」
「ヤツトセ?」
 七ではなく、八。それが七月恋花の、本当の名前なのか。
 と、聞くことはできなかった。
「あ、オカミスの人発見ですわ」
 大介は、目の前に現れた少女たちにげんなりする。
「……お前ら、ここには訓練を積みに来たんじゃねぇのか。イライラする」
 トウカが買い物袋を両手に(そしてジョシュアを背中に)、反論する。
「だって京都ですもの。友禅に甘味に、お買い物しないとかのほうが、おかしいですわ」
「だから修学旅行じゃねーだろ……」
「まあまあ、そう堅いこと言うなって」
 マリアが大介の肩を叩く。
「……『どんなつらい修業だって、息抜きの時間は必要さ』なんて言う台詞が聞こえるぜ。イライラする」
「おお、お前さては予知能力の持ち主か。さすがはオカミスだ」
 イライラを通り越して頭痛がする。
「ところでお前、これから汝鳥に戻るだろ? オイラたちはもう少し買い物していくから、荷物持ち手伝ってくれよ」
「断る。荷物が多いのは、てめぇらの自業自得だろうが」
 トウカがすねた声を上げる。
「えー。女の子に大荷物担がせて自分は何もしないなんて。紳士じゃないですわー」
 大介は、トウカとマリアと、しばらく睨み合う。別に彼女らなど怖くはないが、周囲からの視線は痛い。
「……イライラするぜ」
 その後大介は恋歌と共に、剣術研究会女性陣の買い物に数件付き合わされたあげく、その荷物を全て背負わされる羽目になった。当然、烏丸神社に到着した時点で倒れ伏し、恋歌の素性をまたしても聞きそびれたのは、言うまでもない。

睦月(16)

 香奈がゆったりとした動作で、それでも急ぎながら、社務所の廊下を歩いている。
 足を踏み入れた先は、社務所に設けられた居間の一つ。内部には、剣術研究会と、オカルト・ミステリー倶楽部の部員たち、顧問たちがたむろしている。そしてその前には、礼儀正しく正座する、壮年の男が一人。
 香奈はその男のすぐ脇に座ると、ふかぶかと頭を下げる。
「申し訳ありません、葦矢さま。わざわざお越しいただいたのに、お出迎えもできなくて」
 対する壮年の男は、柔らかく笑う。
「良いのですよ。私も予告せずの訪問でしたし」
 蓮葉朱陽が、口を開く。
「へえ、やっぱり偉い人なんだ」
 その言葉に反応して、香奈が向き直る。
「葦矢さまは京汝鳥の退魔師協会において、重要な役割を担うお方なのです。古くは江戸末期、大厄を封じた陰陽師の家系の、末裔にあらせられます。今回の例祭に於きましても、大厄の封印を強化する役務を負っておいでですの」
 左様でございます、と、その葦矢という男が仰々しく頷く。
「しかし京都も人手不足でございましてな……できれば、東汝鳥の皆様方にも、警護の役を担っていただきたいのです」
「ふん、何の依頼かと思えば。要は用心棒か」
 ネイが葦矢を睨む。
「妾どもは特訓のために、京都くんだりまで来ているのだぞ? それがなぜ、ただつっ立っているだけの用心棒などに、時間を潰されねばならんのだ」
 部員たちがざわめき始める。
「……何かおかしいことを言ったか」
「唯一おかしいとしたら、珍しくまともなことを言ったことデスかね」
 失敬な、と憤慨するネイを捨て置いて、ウォレスが尋ねる。
「これが言ってんのも、もっともなことデスね。大厄の封印には、どんだけの妖怪が詰めかけるってんデスか?」
「正直、予測がつきませんで……地蜘蛛が東に向かったとはいえ、汝鳥にはまだ多くの妖怪が大厄の封印を目当てに群がっております。中でも最も心を痛めておりますものが、救世党の暗躍でございまして」
「グゼトウ?」
 香奈が説明する。
「末世思想に染まった邪教の集団ですの。古くから京都を根城に活動していて、幾度となく私どもと、ことを構えております」
「左様。き奴らにとって、大厄の存在はうってつけでしてな。末世が来ぬなら自らの手で、というわけです」
 ウォレスが首をひねる。
「そりゃ物騒なことデスね……どこにもその手のは湧くということデスか。
 いいデショう。その依頼、受けマス。希望者はあとで、私のところに名乗り出てくだサイ」
 ネイが目を見開いて、ウォレスを見る。
「希望者、だと? 貴様らしくもないな、ゲー公。部活動は全員参加が原則であろうが」
「少々込み入ってる部員もいマスんでね。オカルト・ミステリー倶楽部は任意参加とさせてもらいマス。剣術研究会は自由に決めればよろしいデショう」
「言われなくてもそうするわ。剣術研究会は欠席不可だから、そのつもりで体調など万全整えておくように」
 葦矢がにっこりと笑う。
「結構でございます。仔細は追って連絡いたしますので、しばしのお待ちを」

睦月(17)

 輝充郎が、烏丸神社の境内に入る。そこには、修練に励む妖怪バスターの姿は見えない。
 何か、ミーティングでもやっているのか。遅れて帰ってきたとなると、ネイがうるさそうだ。
 そんなことを考えながら、輝充郎が社務所に足を向ける。
「旦那、旦那」
 大顎の声がする。社務所の周りを見回すとその影で、馴染みの犬神が前足を振っている。
「何だ、どうした」
「いや、ね。もう少し遅く帰って来れば良かったのにって、思いましてね」
 輝充郎は、大顎の前にしゃがみ込む。
「何があった。顧問がおかんむりか?」
「その程度で済むならいいんですがねえ。かなりのお偉いさんが、いらっしゃってるようなんですよ」
「ほう? 挨拶くらいは、しておいたほうがいいのかね」
 いやいや、と、大顎は首を振る。
「会わないほうがよろしいかと。ほら、あたしも犬の端くれじゃないですか。だから、匂いとか、旦那がたよりかは分かるんですよね」
「……どんな匂いがした?」
「あんまり声をでかくして言える話じゃございやせんが、その御仁からは血と妖怪の匂いが、微かに漂って参りやす」
 その時、社務所の引き戸が開く音がした。輝充郎が思わず数歩、建物の影に入り込む。
 数人の足音が、玄関から外へ進み出る。
「出てきやしたよ。あの背広着た男」
 輝充郎は、大顎を世話する振りをしながら、恐る恐る後ろを見る。
 背後では、葦矢が香奈に送られて境内を出るところだった。

睦月(18)

「陰陽師、葦矢萬斎」
 ウォレスは自分の記憶を手繰るように、それらを言葉に変えていく。
「京都でも有数の術者として知られたかたデス。その門を叩く弟子は数知れず。最近じゃ、時々テレビにも出演されていらっしゃいマスね? それがどんだけ信頼されているかなんて、烏丸さンの態度を見てりゃ、一目瞭然デショう」
「でも、先生は引っ掛かっていらっしゃる、と」
 ウォレスは塔子に頷く。
「アタシのとり越し苦労ならそれで済む話なんデスがねぇ。あのかたの素性は、どうしても引っ掛かる。
 確かに、お弟子さンや近い人たちは、この人の術はすごいという。でも公の場で、ご自身が術を使っているのを見たかたは、誰もいらっしゃらないんデスよ」
 話を聞いていたオカルト・ミステリー倶楽部の部員たちが、黙りこむ。
「……ま、それはさておいても、いろいろ問題抱えてる生徒が多いことデスし。ウチは任意参加とさせてもらいマス。朝霞くンが来たら、誰か伝えといてくだサイね。あと、ミズ・ラピスにゃ個人的にお願いしたいことが」
 多賀野瑠璃が頷く。
「吸血鬼さんに、リファール先生のお話をしに行けばいいのですね?」
「そういうことデス。あちらさンが是が非でも離れたくないというなら、多少力づくでいっちゃっても構いマセンので」
「それはちょっと、いろいろと難しいんですけどね」

睦月(19)

 ウォレスと部員たちのやり取りを眺めながら、春菜は思案をめぐらせる。
 大厄が封印された時の詳細は、隠蔽された可能性がある。
 そして、大厄を封じたとされる陰陽師の家系直々の、警備の依頼。
 確かに引っ掛かるという点は、ウォレスと同感だ。香奈はあの葦矢という男に全幅の信頼を寄せているようだが、門外漢の自分たちには、不安なことこの上ない。
 自分は現在、智己とトレードという形でオカルト・ミステリー倶楽部に籍を置いているから、任意参加ということにはなるが……参加するべきだろうか。ウォレスの好意は理解できるのだが、やはり剣術研究会のメンバーのことが心配だ。自分一人が行ったところで、何が変わるというわけではないけれど。
 と、そこで春菜の思考は襖の開く音に遮られた。
 妙に深刻な表情をした吹雪が、部屋の入り口に立っている。
「高槻。ちょっと相談がある」

睦月(20)

 剣術研究会のミーティングにおいても、オカルト・ミステリー倶楽部と同様の光景が繰り広げられていた。
「ありえません」
 香奈は若干頬を赤くしながら、真琴の言葉に反論する。
「葦矢さまは汝鳥でも多大な功績のあるお方です。それが、皆さんに悪意を持って近づくなんて、私にはとても」
「気に障ったのなら、ごめんなさい。あんなことがあったから、少し敏感になってるのかもしれない」
 真琴もまた、春菜と同様の心境だった。
「まー、お嬢さん。そんなに気にしなくていいわよ、まったく」
 ぽん、と、鋼音が真琴の肩を叩く。
「もしもあのおっさんが、腹に一物抱えてたとしよう。その時はあたしらが斬る相手が、少し増えるだけのことさ」
 香奈が思わず血相を変える。
「ちょ、何を言ってるんですの!?」
「あたしは十分に本気よ? 我が野望の前に立ちはだかろうとする者は、全て殲滅するのみ」
 麗が苦笑いする。
「久々に聞いたような気がするわね、いつもの鋼音節」
「何よ、誰も聞いてないだけでしょう?」
 そのまま話が脱線していくのを眺めながら、真琴は一人思い悩む。
 あの物腰丁寧な紳士に対して、真琴は、なぜか不安しか感じないのだ。

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